LGBT支援法律家ネットワーク有志

「差別を放置せず声を上げ続けよう」
~杉田水脈衆院議員論稿と自由民主党による対応を受けて~

2018年8月8日

LGBT支援法律家ネットワーク有志

【杉田議員論稿に対する自由民主党と杉田議員の対応について】

私たちは、2018年7月24日付で、杉田水脈衆院議員の論稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」(以下、「本件論稿」といいます。)に対する抗議声明を発表し 、杉田議員に対して憲法遵守義務(憲法99条)を負う国会議員として適切な行動を求めるとともに、自由民主党に対して杉田議員に対し厳正な処分をすることを求めました。また、ほかの多くの市民や団体からも、本件論稿の問題点を指摘する声が上がっています。

このような事態を受け、2018年8月1日、自由民主党は「LGBTに関する我が党の政策について」 を公表し、その中で、「今回の杉田水脈議員の寄稿文に関しては、個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導したところです。」と述べました。また、2018年8月2日には、杉田議員からは「党性的指向・性自認に関する特命委員会 古屋圭司委員長からご指導をいただきました。真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます。」とのコメントが、事務所を通じて発表されています 。

まず、自由民主党が本件論稿の問題を放置することなく上記の対応をとったこと、杉田議員が市民の声を黙殺せず、自らではなく事務所を通してであってもコメントを発表したことについては一定の評価をします。

しかし、自由民主党の上記コメントからは杉田議員に対して具体的にどのような注意を与えたのかが分かりませんし、私たちが指摘してきた「出産を『生産性』(経済的利益)から捉え、それに資するかどうかで施策の対象となる個人を選別することが憲法の個人の尊重や基本的人権の保障の理念に著しく反する」という問題について自由民主党が肯定しているのか否定しているのか明らかではありません。また、杉田議員の上記コメントも本件論稿の問題点を指摘するものではありませんので、様々指摘されている問題点に対する杉田議員の認識も明らかではありません。

杉田議員の本件論稿は、後で指摘するとおり基本的人権の尊重を真っ向から否定するものであること、そのような論稿が憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う国会議員によって発表されたこと、自由民主党のLGBTに関する政策の基本方針にも反するものであることなどからすると、今回の自由民主党の杉田議員への対応は十分なものとは考えられません。

また、本件論稿が問題になった後の自由民主党所属国会議員からの様々な発言(谷川とむ衆院議員「同性婚や夫婦別姓といった多様性を認めないわけではないんですけど、それを別に法律化する必要はないと思っているんですね。趣味みたいなもので」 、二階俊博幹事長「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観、考えがある」 に照らすと、自由民主党として本件論稿の問題点を指摘することはなお必要だと考えます。本件論稿への見解を明らかにしないことは、主権者である国民の政治的選択を実質的に妨げるもので、民主主義に反する姿勢といわざるをえません。

私たちは、自由民主党に対して、本件論稿の問題点に対する党としての認識を示したうえで、杉田議員に対して厳正な処分を行うよう改めて求めるとともに、再発防止に向けた実効的な取り組みを行うことを求めます。また、杉田議員に対しても、本件論稿の問題点に対する現在の認識を示したうえで、撤回・謝罪を含む真摯な対応をとるよう改めて求めます。

【差別に対して声を上げ続けることの重要性】

1 人権が普遍であること

私たちが本件論稿への前記抗議声明を発表したのは、本件論稿の内容が基本的人権の尊重を真っ向から否定するものであり、憲法99条が定める国会議員の憲法尊重擁護義務に違反するもので見過ごすことができないと考えたからです。
人権は、子どもを産むかどうかにかかわらず、人間である以上は当然に保障されなければなりません。この人権の普遍性は「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」と憲法でも定められています(憲法11条)。また、世界人権宣言も「すべての人間は、生れながらにして自由であり、尊厳と権利とについて平等である。」(1条)と人権の普遍性を宣言しています。本件論稿は人権保障が条件付きであることを述べるものであり、人権の普遍性という人権保障の大原則に対する理解を欠いたものです。基本的人権の尊重を真っ向から否定するものといわざるをえません。

2 優生思想は否定されなければならないこと

特に、「(LGBT)は子供をつくらない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」という点は人権保障の観点から大きな問題があります。「税金の使い道という政策的な見解であり差別発言ではない」という意見があるかもしれません。しかし、その人が役に立つかどうかに着目して人権保障の対象となるかどうかを決めるという考え方はナチスの優生思想につながります。わずか75年前、ナチスは「社会にとって有用でない」という優生学的理由で多くの障害者や同性愛者等を迫害し、虐殺しました。2016年7月に発生した相模原障害者殺傷事件をみても、優生思想が過去のものではなく、現在も人の生命を脅かし続けていることがわかります。私たちは、優生思想につながる考え方に対しては「間違えている」と声を上げなければなりません。それに、特定の属性の市民を行政サービスから排除することは、単に税金の使い道の話ではありません。特定の市民を一人前の市民として扱わないことは、その人たちの尊厳を著しく傷つけることになります。これは人権保障の根本にある「個人の尊厳」の否定にほかなりません。また、尊厳を傷つけられた人は生きる希望を失うかもしれません。差別は人を死に追いやるのです。

3 差別の存在を矮小化する言論は厳しくチェックしなければならないこと

杉田議員は本件論稿の中で、「しかし、LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます。」と述べます。しかし、LGBTに対する差別や困難が現に存在することは、日本政府・研究者・市民団体等による各種調査から明らかになっていますし、自由民主党が2016年5月24日に発表した「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すための わが党の基本的な考え方 」 の中でも繰り返し指摘されています。そして、実際に日本政府はLGBTへの差別を解消すべく、様々な施策を実行しています。
杉田議員の上記発言は、単に現実を理解していないというだけの問題ではありません。差別を矮小化して否定することで、私たち市民の目から差別の存在を隠すものです。私たちが真に平等な社会を作るためには、差別の存在を認識して乗り越えていかなければなりません。私たちは、差別から目を背けてはならないことはもちろんのこと、差別の存在を矮小化したり隠すような言論に対しても厳しくチェックをしなければならないのです。

4 私たち市民一人ひとりが自由に声を上げることが重要であること

本件論稿については、多くの市民から問題点を指摘する声が上がりました。これは、とても重要なことです。市民がSNSやデモや集会を通じて本件論稿の問題点を批判することは、言論活動を通じて政治的意思決定に関与する行為として表現の自由で保障されなければなりません。民主主義国家においては、ときの権力者の考え方に唯々諾々と従うのではなく、その考え方が正しいかどうか、権力が正しく使われているかを厳しくチェックして、正しくないと思うときは自由に批判できなければならないからです。今回、多くの市民からの批判を受けて自由民主党や杉田議員がコメントを発表したことは、言論の自由に基づくものであって、まさに民主主義的な営みといえます。

5 差別を放置せず声を上げ続けよう

差別につながる考え方に対しては必ず反対の声を上げなければなりません。差別に気づきながら黙っていることは中立的な態度ではありません。差別の黙認です。
差別を受けるのは社会の少数派ですから、一度差別が放置されればその解消は非常に困難になります。法律は多数決で制定され、多数派の意向が反映された法律によって政治が行われるからです。
自分自身が差別を受けているかどうかにかかわらず、差別に気づいたときは放置したり無視したりせず、反対の声を上げ続けましょう。差別を受ける人が多数となることはできなくても、差別を許さないと考える人が多数になることはできます。私たちは、差別の黙認が大勢の人々を迫害し、虐殺してきた過去を繰り返さないよう、LGBTをはじめとしてあらゆる差別に立ち向かい、声を上げ続けます。

以上

LGBT支援法律家ネットワーク有志

石橋 達成

海老澤 美幸

大畑 泰次郎

岡村 晴美

小田 瑠依

加 藤 慶 二

佐藤 樹

清水 皓貴

鈴木 朋絵

須田 布美子

高遠 あゆ子

角田 由紀子

中川 重徳

永野 靖

中村 貴寿

南川 麻由子

沼田 幸雄

服部 咲

藤澤 智実

堀江 哲史

松宮 英人

水谷 陽子

宮崎 綾

三輪 晃義

室谷 光一郎

森 あい

矢﨑 暁子

山下 敏雅

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