杉田水脈氏論稿『「LGBT』支援の度が過ぎる」に対する抗議声明


衆議院議員 杉田水脈 殿
自由民主党     御中

2018年7月24日

杉田水脈氏論稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対する抗議声明

LGBT支援法律家ネットワーク有志

第1 声明の趣旨

我々は,杉田水脈氏(以下「杉田氏」という)に対し,2018年7月18日発売に係る「新潮45」2018年8月号(新潮社)に掲載された同氏の論稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」(以下「本件論稿」という。)につき強く抗議し,杉田氏に対して真摯な謝罪,本件論稿の撤回等をはじめとする憲法遵守義務(憲法99条)を負う国会議員の名に恥じない適切な行動を求めるとともに,自由民主党に対して杉田氏に対し厳正な処分を行うよう要望します。

第2 声明の理由

1 はじめに

本件論稿は,LGBTを生産性がないなどと述べ,行政がLGBTに積極的な施策を行うことに反対するものですが,憲法が保障する基本的人権の理念及び自由民主党が公表する理念・政策に相反するものであることは明白です。国民の代表である国会議員ともあろう者が,LGBTを生産性がないものと指摘し,LGBTに対する差別や偏見が現に存在することを否定するばかりか,LGBTを侮辱し,差別し,更に差別を助長することは驚きを禁じ得ないものであり,到底容認することはできません。

2 「『生産性』がない者に税金を投入すべきではない」との主張について

(1)  杉田氏は,本件論稿において,子育て支援や不妊治療への補助は少子化対策になるが,「(LGBT)は子供をつくらない,つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか(本件論稿59頁)」などと述べています。上記主張は,子どもや子育てを国家の経済的利益の視点だけから捉えたうえで,LGBTは国家の経済的利益に資するところがないから税金を投入すべきでないとするものといえます。

(2)  しかし,そもそも子どもの存在や出産・子育てを,国家の経済的「生産性」(経済的利益)から捉え,それに資するかどうかで施策の対象となる個人を選別することは,憲法の「個人の尊重」や基本的人権の保障の理念に著しく反するものです。

すなわち,憲法13条は「すべて国民は,個人として尊重される」と規定し,全ての人が「個人」として尊重されるべきことを定めています。かかる憲法の基本理念については,杉田氏の所属する自由民主党も,2005年11月22日付「新理念」において,「わが党は,すべての人々の人格の尊厳と基本的人権を尊重する,真の自由主義・民主主義の政党である。」と定めている通りです。

憲法は,子どもを産む者も産まない者も,子をもつ家庭も持たない家庭も,国政において等しく尊重されることを求めています。社会の中のある人々が社会的な差別や困難に直面しているとすれば,子どもを持っているか否かにかかわらず,差別をなくし,困難を解消するための施策の対象となることは憲法が当然に求めるところです。

さらに,人が子どもを産むか否か,ある家族が子をもうけるかどうかの問題は,人がどのような人生を生きるかに深くかかわり,まさに憲法13条の保障する自己決定権の行使にかかわる問題です。それを国家の経済的生産性(利益)という指標から論ずること自体,個人の不可侵の領域に対する不当な介入であり,憲法の保障する自己決定権に対する重大な侵害にほかなりません。ましてや,本人の意思にかかわらず,身体的要因その他により,子を持つ選択を持たない個人にとって,杉田氏の主張は,その人格を殊更に傷つけ,貶めるものです。

杉田氏の上記主張は,憲法,そして自由民主党が掲げる基本的理念を看過した極めて差別的な主張であることは明らかです。

(3)  いやしくも国会議員の立場にある杉田氏がかかる差別的主張を行ったことは極めて由々しき事態であり,これを容認することは,LGBTに限らず,あらゆるマイノリティの人権侵害を誘発・助長するものというべきです。

3 LGBT施策に取り組むことに反対する主張について

(1)  また杉田氏は,LGBTに対する差別が存在しないかのように述べたうえ,「『常識』や『普通であることを』を見失っていく社会は『秩序』がなくなり,いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません(本件論稿60頁)」と述べ,行政がLGBTに積極的な施策を行うことに反対しています。

(2)  しかしながら,LGBTは日本国内においても,歴史的に差別され続け,今なお深刻な生きづらさを抱えています。

そもそも,日本では,LGBTに関する法律は,2003年7月10日に成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」以外には存在せず,法律上同性同士である者の婚姻が認められていないなど,LGBTについての立法が未だ不十分な状況です。

また,1994年まで,文部省(当時)刊行の「生徒の問題行動に関する基礎資料―中学校・高等学校編」において,同性愛は「倒錯的性非行」として,「一般的に言って健全な異性愛の発達を阻害するおそれがあり,また,社会的にも,健全な社会道徳に反し,性の秩序を乱す行為となり得るもので,現代社会にあっても是認されるものではないであろう」とされていました。同性愛は,異常な性非行であるとされていたのです。

実際に,社会においても,近年,ある大学院でLGBTに属する男子学生がアウティング被害に遭い,大学当局からの適切な支援を得られずに転落死する事件が報じられるなど,LGBTが差別・偏見からくる攻撃を受ける機会は多くあります。

このように歴史的・社会的にもLGBTが差別にさらされていることは明らかです。

(3)  そうであるがゆえに,自由民主党の政策「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方 」においても,「現状と課題」として「しかしながら,現在,性的指向・性自認の多様なあり方について,社会の理解が進んでいるとは必ずしも言えず,性同一性障害特例法等の制度的な対応が行われたものの,未だにいじめや差別などの対象とされやすい現実もあり,学校や職場,社会生活等において,当事者の方が直面する様々な困難に向き合い,課題の解決に向けて積極的に取り組むことが求められている。」とされ,さらに「わが党の取り組み」として「このような中で,保守政党たるわが党が果たすべき役割は大きい。」とされているものと思料いたします。

(4)  また,2017年の刑法の一部改正に対し,参議院法務委員会 で「強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ,被害の相談,捜査,公判のあらゆる過程において,被害者となり得る男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを,関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること」との附帯決議がなされました。2018年の民法及び家事事件手続法の一部改正においても,衆議院 及び参議院 の法務委員会で「現代社会において家族の在り方が多様に変化してきていることに鑑み,多様な家族の在り方を尊重する観点から,特別の寄与の制度その他の本法の施行状況を踏まえつつ,その保護の在り方について検討すること」及び「性的マイノリティを含む様々な立場にある者が遺言の内容について事前に相談できる仕組みを構築するとともに,遺言の積極的活用により,遺言者の意思を尊重した遺産の分配が可能となるよう,遺言制度の周知に努めること」との附帯決議がされています。これらの附帯決議がなされたことも,LGBTが差別にさらされており,そのため施策を行う必要性が認識されていることに他なりません。

(5)  それにも拘らず本件論稿は,LGBTの差別の実態がないものとして,施策の必要性を不当に低く評価しています。杉田氏の主張は,自由民主党の理念・政策からも真っ向から反しており,LGBT施策に取り組むことに反対しています。

4 その他の点について

本件論稿は,上記の「生産性」についての主張以外にも,LGBTに対する誤解・偏見・差別意識が指摘されており,これらについても当然に許容することはできません。

5 まとめ

本件論稿に記載された杉田氏の主張は,LGBTに対する無理解と偏見,差別意識に基づいており,人が人として存在するだけで尊重されるとする日本国憲法の理念に反するばかりか,自由民主党の方針とも相反しています。我々は,LGBT支援の立場はもとより,日本国憲法の精神を尊重する法律家として,本件論稿に対し断固抗議します。

そのため,我々は杉田氏に対して,真摯な謝罪,本件論稿の撤回等をはじめとする憲法遵守義務(憲法99条)を負う国会議員の名に恥じない適切な行動を求めるとともに,自由民主党に対して,杉田氏に対し,厳正な処分(杉田氏による本件論稿の発表は,自由民主党党則第92条,自由民主党規律規約第9条における「党の規律をみだす行為」ないし「党員たる品位をけがす行為」に当たるものと思料します)を求めます。

LGBT支援法律家ネットワーク有志

清水 皓貴

加藤 慶二

山下 敏雅

鈴木 賢

堀井 秀知

小田 瑠依

佐藤 樹

三輪 晃義

内田 和利

矢﨑 暁子

水谷 陽子

金子 祐子

海老澤 美幸

土居 太郎

角田 由紀子

服部 咲

沼田 幸雄

中村 貴寿

森 あい

藤澤 智実

寺原 真希子

上杉 崇子

永野 靖

横山 佳枝

中川 重徳

宮井 麻由子

加藤 丈晴

石橋 達成

室谷 光一郎

須田 布美子

大畑 泰次郎

田中 利英

鈴木 朋絵(2018年7月25日追記)

南川 麻由子(2018年7月25日追記)

34名(2018年7月25日現在)

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杉田水脈氏論稿『「LGBT』支援の度が過ぎる」に対する抗議声明

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弁護士 加藤 慶二