LGBT支援法律家ネットワーク有志

パブリックコメント(第5次出入国管理基本計画)について


法務省入国管理局総務課企画室 御中

2015年7月24日
LGBT支援法律家ネットワーク有志

パブリックコメント(第5次出入国管理基本計画)について

 

意見の要旨

  1. 出入国管理行政の今後の方針に,「セクシュアル・マイノリティの人権に配慮した適切かつ柔軟な対応を図っていくこと」を加えるよう求める。
  2. 在留資格制度を柔軟に運用し,
    ①同性カップルについては,本国における有効な婚姻関係が証明され又は家族としての実体が証明されれば,「家族滞在」や「日本人の配偶者等」などとして,配偶者として在留資格を認めること
    ②①が認められない場合,家族としての実体を証明できる全ての同性カップルに対して「特定活動」の在留資格を認めること
    ③家族としての実体がある同性カップルの外国人がオーバーステイとなり,退去強制令書が発付された場合には,柔軟に在留特別許可を認めること
    を求める。
  3. 同性愛者やトランスジェンダーであることを理由に迫害を受けた者から難民認定申請がされた際には,現在の極めて厳格な難民認定の運用を改め,適正かつ迅速に難民として庇護をするよう求める。
  4. トランスジェンダーの被収容者に対し,その性自認を尊重した処遇を求める。

1 出入国管理行政の今後の方針に,「セクシュアル・マイノリティの人権に配慮した適切かつ柔軟な対応を図っていくこと」を加えるべきこと

第5次出入国管理基本計画案Ⅲには,「特に,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会においては,多くの外国人が我が国を訪れることから,円滑な出入国手続と安全を守る取組によって,出入国管理行政としても,同大会の成功に大きく貢献できるよう積極的に諸施策を実現していくことが期待されている。出入国管理行政の運営に当たっては,このような内外の状況及び政府全体の取組を十分に認識し,我が国経済社会の活性化と安全・安心な国民生活の確保に寄与していかなければならない。そのためには,出入国管理行政を取り巻く国内外の状況の変化に適切かつ迅速に対応していくことが求められる。」と書かれています。

ここで,出入国管理行政を取り巻く国外の状況を見てみると,欧米を中心にセクシュアル・マイノリティ(性的少数者。レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー等,性的指向や性自認などに注目した場合そのあり方が少数である人々の総称)の権利保障が進められ,セクシュアル・マイノリティに対する差別禁止法や同性婚,同性パートナーシップ制度を整備する国は年々増加しています。

また,国連人権理事会は2011年6月に,性的指向と性自認に関する初めての国連決議である17/19(A/HRC/RES/17/19)を採択し,個人の性的指向や性自認を理由とする差別に対する重大な懸念を表明しました。同理事会は2014年9月にも重ねて同趣旨の決議を採択しています。

このように,セクシュアル・マイノリティの人権を保障し,差別を撤廃することは国際的な人権基準となっています。

そして,このような国際人権基準のもと,2014年2月に開催されたソチオリンピック・パラリンピック競技大会の開催にあたって,開催国であるロシアが「反同性愛法」を制定したことに対して強い国際的な非難が向けられ,各国首脳が開会式への参加を見送ったことは記憶に新しいところです。

わが国においても,性的指向や性自認を理由に家族を形成する権利を侵害し差別的扱いをすることは憲法13条や憲法14条に違反して許されないことは明らかであり,法務省の「啓発活動年間強調事項」に性的指向や性同一性障害を理由とする差別の禁止が明記されているのをはじめ,「子ども・若者ビジョン」「第3次男女共同参画基本計画」において性的指向や性同一性障害を理由とする差別や偏見の解消が明記される等,性的指向や性自認を理由とする差別の解消に向けて政府も積極的に動き出しています。また,日本政府は,国際社会に対し,上記2011年と2014年の国連人権理事会の決議に賛成するなど,性的指向と性自認に基づく差別に反対する立場で行動しています。

したがって,第5次出入国管理基本計画の策定にあたっては,上記国外におけるセクシュアル・マイノリティの国際人権基準や憲法13条・憲法14条に鑑みて,出入国管理行政の今後の方針として「セクシュアル・マイノリティの人権に配慮した適切かつ柔軟な対応を図っていくこと」を加えるよう求めます。

具体的に取られるべき施策の方針は,以下に述べるとおりです。

2 在留資格制度について

現在の在留資格制度の運用上,同性カップルは重大な不利益を受けています。

例えば,同性の日本人とパートナーシップを築いている外国人は,出入国管理及び難民認定法(以下,「法」という)別表第2の「日本人の配偶者等」の在留資格を得ることができません。
そのため,日本人の同性パートナーである外国人は,法別表第1の活動に基づく在留資格を得る必要がありますが,職場を解雇されたり,留学が終了したりした場合など,別表1の活動が継続できない場合は,在留期間の更新が許可されません。

平成25年10月18日には,法務省が,外国で有効に同性婚をしている者については人道的観点から「特定活動」による入国・在留資格を認める旨の通知(法務省管在第5357号)を発出したので,実質的にみれば,一定のカップルについては身分ないし地位に基づく在留資格が認められることとなりました。しかし,この取扱いが適用されるのは本国で有効に同性婚ができる外国人同士のカップルに限定されています。日本人と同性婚をした外国人など,本国で有効に成立していない同性婚の配偶者には適用されないのが現状です。

もし,別表1の活動が継続できず,「特定活動」の在留資格も得られない外国人が日本に滞在しようとすると,短期滞在ビザでの入国を繰り返すか,改めて法別表1の在留資格を取得しなければなりません。しかし,単純労働者を受け入れていない日本で,外国人が法別表1の在留資格を取得するのは依然としてハードルが高いのが実情であり,多くの同性カップルが別離を余儀なくされています。

このように,日本では,出入国管理行政の運用上,異性カップルには保障されている「家族で一緒に生活をする」という基本的な権利(市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)第17条第1項及び第234条第1項)が同性カップルには保障されていません。

そこで,第1に,前述のセクシュアル・マイノリティの国際人権基準や家族で一緒に生活をするという基本的な権利を保障するという観点から,同性カップルについては,本国における有効な婚姻関係が証明され,又は家族としての実体が証明されれば,「家族滞在」や「日本人の配偶者等」などとして,「配偶者」として在留資格を認めるよう求めます。

なお,日本は,近年の同性婚を巡る諸外国の動きを踏まえ,2013年には,在日米軍所属の軍人・軍属のパートナーについて「配偶者」と認め,ビザなしで日本に入国できることをアメリカ合衆国政府と合意するなど,柔軟な対応をし始めています。これは,現行の国内実務上法律上の配偶者と認められない者についても,一定の場合には「家族」ないし「配偶者」として扱いうることを示すものであり,上記の対応を軍人・軍属から広く市民一般に広げることは可能なはずです。

第2に,仮に同性カップルに対して,「家族滞在」や「日本人の配偶者等」などとして,「配偶者」としての在留資格を認めないのであれば,法務省管在第5357号を柔軟に運用して,本国で有効に婚姻することができる同性カップルだけに「特定活動」の在留資格を認めるのではなく,家族としての実体を証明できる全ての同性カップルに対して「特定活動」の在留資格を認めるよう求めます。

第3に,家族としての実体がある同性カップルの外国人がオーバーステイとなり,退去強制令書が発付された場合には,柔軟に在留特別許可を認めるよう求めます。

3 難民認定制度について

難民条約によれば,難民とは,「人種,宗教,国籍,特定の社会的集団に所属すること,政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」と定義されています。

セクシュアル・マイノリティについては,「特定の社会集団の構成員であること」に該当するかという問題がありますが,UNHCRのガイドラインによればこれを積極的に解すべきとされています(2012年10月23日国際的保護に関するガイドライン第9号:難民の地位に関する1951年条約第1条(A)2および/または1967年議定書の文脈における性的指向および/またはジェンダー・アイデンティティを理由とする難民申請)。2013年には欧州司法裁判所が,同性愛者を対象とした刑罰が存在することは,それらの人々がその他の人々とは異なる特定の集団を形成しているということを示しており,したがって,「特定の社会集団」に同性愛者が含まれると判断しました。

また,「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること」の認定が厳しいという問題があります。

中東やアフリカ諸国を中心として,同性愛者に対して死刑を含む刑罰を科す国が依然として多数存在します。また,同性愛者は他の迫害理由とは異なり,家族やコミュニティから迫害を受けることが多く,特に庇護の必要性が高いという特徴があります。

日本でも同性愛者であることで迫害を受けたとして難民申請を行っている事例がありますが,我々の知る限り難民認定されたものはありません。しかし,これらの申請者が「真に庇護を受ける者」であることは言うまでもありません。また,トランスジェンダーについても,それが本国で差別や迫害の対象になる場合には,同じく難民として「真に庇護を受ける者」であることは明らかです。

したがって,性的指向や性自認を理由に本国で迫害を受けた者から難民認定申請がされた際には,現在の極めて厳格な難民認定の運用を改め,適正かつ迅速に難民として庇護をするよう求めます。その際,UNHCR等との連携により,各国の性的指向や性自認を理由として迫害を受けたという者に対する難民認定の実情について研修を充実させることも求めます。

4 被収容者の適正な処遇について

トランスジェンダーの被収容者に対し,その性自認を尊重した処遇を求めます。

これまでにも,トランスジェンダーの被収容者の処遇に関しては,弁護士会に対し人権救済が申し立てられ,日弁連や兵庫県弁護士会から救済勧告が出された事例があります(平成21年9月17日日弁連が黒羽刑務所に対し勧告,平成22年11月9日日弁連が東京拘置所に対し勧告,平成26年4月22日兵庫県弁護士会が加古川刑務所に対し勧告)。

最近では,トランスジェンダーの被収容者に対するホルモン治療の継続について,法務省が矯正管区長及び刑事施設の長に対し,原則としてこれを認めないとの通知が法務省から発せられていますが(法務省矯成第3212号),この処遇は性自認を尊重せず,個人の尊厳を著しく損なうものです。

上記はいずれも刑事の収容施設の事案ですが,入国管理行政おける収容においても同様の問題が生じており,トランスジェンダーの被収容者に対し,その性自認を尊重した処遇を行うよう求めます。

以上

LGBT支援法律家ネットワーク有志

石田光史
大畑泰次郎
緒方枝里
加藤慶二
加藤丈晴
金子祐子
木村いずみ
久保井摂
倉知孝匡
郷田真樹
斎藤信子
鈴木朋絵
田中利英
角田由紀子
永易至文
中尾雄史
中川重徳
永野靖
中村貴寿
南川麻由子
野元惠水
馬場彩
原島有史
秀島美穂
前園進也
皆川洋美
三輪晃義
森あい
山下敏雅
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